技法教科書 vol.1 蘇繍(そしゅう)とは――髪より細い糸で描く、二千年の針の絵画
京都の老舗呉服店の帯を見ると、時々「蘇州刺繍」という言葉に出会います。ヒョウの柄や花鳥が、絵のように滑らかに縫い取られたあの刺繍です。実はあれ、日本の着物文化に深く溶け込んでいながら、生まれは中国・蘇州。「蘇繍(そしゅう)」と呼ばれる技法です。
二千年続く、四大名繍の筆頭
蘇繍の歴史は二千年以上前にさかのぼります。春秋時代の呉の地(今の蘇州)で育まれ、湖南の湘繍、四川の蜀繍、広東の粤繍と並んで「中国四大名繍」と称されます。2006年には中国の国家級無形文化遺産(第一回リスト)に登録されました。
すごさの核心は「劈糸(へいし)」
蘇繍最大の特徴は、糸を割くこと。1本の絹糸を2分の1、4分の1……と、最大48分の1まで手で割いて刺します。髪の毛よりも細いその糸を絵筆のように走らせて、猫の毛並みの柔らかさや金魚の尾の揺らぎを表現します。盛り上がらない平面の仕上がりなのに、光の角度で艶が動く——機械では出せない「針の絵画」です。表裏どちらから見ても美しい「双面繍(両面刺繍)」は、その到達点と言われます。
日本の着物との深い縁
呉服の世界では、汕頭(すわとう)・相良(さがら)と並んで「中国三大刺繍」の一つに数えられ、訪問着や袋帯に好んで用いられてきました。細い糸を幾重にも重ねる蘇州刺繍の、平面的で艶やかな表情は、日本の美意識と早くから響き合っていたのです。
本物の見分け方
手刺繍と機械刺繍の違いは、糸の流れに出ます。手仕事は曲線に沿って糸の角度が絶えず微調整され、色の境界が自然に滲みます。機械は同じ方向のステッチが規則的に並び、裏面に下糸が見えることも。同じデザインのものが大量にあれば、まず機械です。
お手入れ
直射日光と高温多湿を避け、水洗い・水拭きは厳禁(糸と生地の収縮率の違いで歪みます)。ほこりは柔らかい刷毛で払い、折り目をつけず平らに保管するのが長持ちの秘訣です。
蘇繍の小さなイヤリングひとつにも、この二千年の針の歴史が宿っています。「東洋の美を、今日の日常へ」——tarobeniが蘇繍を選ぶ理由です。